私の描く風景は、8割方を勤め先周辺が占めている。
かれこれ9年ほど通っているのだが、毎朝うちから職場まで車で5〜6分の道のりを運転しつつ、朝日に照らされた木々やら草やら遠くに見える山が少し雪景色した様やら朝露に濡れた石仏等々。
美しいものだらけで、「何で絵なんか描いてるんだろう。この景色に勝てる訳もないのに」と心につぶやきながら1日が始まる。
朝は遅刻ギリギリに出発するので写真など撮っている暇がない。
秋も深まったので、いつも通り過ぎるばかりの景色を撮影しておくために、休みの日に職場まで車で行った。
いろいろ気になったものを、朝の光の中で写真に撮って、家に戻ろうと車で走ると、以前に絵に描いた場所にあったはずの小さな小屋だか祠だか、それが無くなっていた。
え、え〜っ?と思ったがそのまま通過して、数日後の昼休みに同僚を誘って現場に行った。
小屋が建っていた頃は、何だか近寄り難い雰囲気で下から見上げていただけだったので、初めて石段を上って小屋の跡地を見た。
こんなに小さい場所だったかしら?と不思議に思うくらい。
石灯籠などはそのまま残されている。何やら文字が彫られている。
石段に上る途中に石碑があり、「大丸山家跡地」とある。平成9年に東京在住の◯◯さん(丸山さんではない)が建てたと書かれている。
すぐ近くのバス停が「丸山」という。
いつもお世話になっている妻有新聞の方に、由来を知ってる人はいないでしょうかと聞いたが、この辺りの古いものの由来はほとんど何も残っていないそうだ。
由来を知られることもないあれこれが遺された場所だから、私がここに来たのか。
せめてそれらを絵に描いて残すために。
絵に描いたものが消滅する案件がまた一つ増えた訳だが、自分が絵を描く理由の一つがそこにあるんだろうと改めて腑に落ちる思いがした。